山姥(やまんば)は、日本の民間伝承に登場する神秘的で恐ろしい存在です。山奥に住む老女の姿をした妖怪として知られ、迷い込んだ旅人を襲うという恐怖の物語が語り継がれています。しかし、山姥の正体には多くの謎があり、あの姥捨て山との関係があるとも言われています。また山姥は恐ろしい一面だけでなく実は母性的な一面や、一度男に触れると数千~数万もの子供を妊娠する多産の神でもあるのです。今回はそんな様々な側面も併せ持つ山姥の魅力に迫っていきます。
山姥とはどんな妖怪?
山姥とは、日本の古い伝承に登場する妖怪で、山深くに住む恐ろしい老女の姿をしています。彼女は道に迷った旅人を自宅に招き入れ、夜が更けるとその旅人を食い殺すと伝えられています。
「やまんば」または「やまうば」と呼ばれるこの妖怪は、白髪に着物姿の老女として描かれます。旅人が山中で遭難し、彼女の家にたどり着くと、夜中に包丁を研ぐ音を聞きつけ逃げ出すという怖いエピソードもよく知られています。
このように、山姥には恐怖を感じさせる側面がありますが、実際には人間に恩恵をもたらす神聖な存在とされることもあります。彼女の二面性が、日本の妖怪伝承の中でも特に興味深いポイントとなっています。
山姥は実在した?山姥の正体と姥捨て山との関係
山姥の正体には下のような説があり、山姥が本当に実在したのかどうかは今でも不明となっております。
- 山間部に住む人々や巫女が妖怪化
- 山の神・山人に攫われた者が山姥になった
- 姥捨て山伝説で捨てられたお婆さんが妖怪となった説
- 出産のために女性が山に籠る習俗や、村の祭りで選ばれた女性が山に籠る習慣から派生した
山の神に使える巫女が山姥になったために不思議な能力を扱うことが出来るというのはしっくりくる説明です。また山の神・山人に攫われた人や姥捨て山で捨てられた人が山姥になったという説もあります。山姥が人を食い殺す恐ろしい凶暴性は攫われたことや捨てられたことに対する恨みから来ているのかもしれません。
また出産や祭りで選ばれ女性が山へ籠る習慣が昔はあり、山へ籠った女性が山姥となったという説もあります。山姥は恐ろしい反面、母性的な属面もあったり、1度男に触れただけで数千~数万の子供を妊娠する能力を持っているとも言われています。こうした能力は山へ籠った女性から派生しているのかもしれません。
山姥と鬼婆の違い
山姥と似ている妖怪として鬼婆が挙げられます。山姥と鬼婆は、どちらも人を食うという非常に残忍で凶暴な妖怪として知られていますが、彼女たちの違いは主に「居住地」にあります。
山姥は、その名前が示す通り「山」に住んでいる老女の姿をした妖怪です。彼女は山深くに住み、道に迷った旅人を誘い込んで襲うことで知られています。
一方、鬼婆は山だけでなく、森の中や原っぱに建てられた小屋、時には人里にも姿を現すと言われています。彼女の出現場所は非常に多岐にわたり、山姥よりも幅広い範囲で目撃されることが多いのです。
さらに、鬼婆の方がより凶暴性が高いとされることが多く、伝承の中には妊婦の腹を裂き、生き胆を取って食べるなど、非常に残虐な話が数多く伝えられています。このような残虐性が鬼婆の特徴の一つとされています。
また、「鬼」という名前がついていることからも、鬼婆の凶暴性が伺えます。名前自体が恐ろしさを示しており、山姥よりもさらに恐怖を感じさせる存在として描かれています。
このように、山姥と鬼婆は似たような性質を持つ妖怪ですが、その居住地や凶暴性に違いがあり、それぞれ独自の恐怖を持つ存在として伝承されています。
山姥伝説
最後に山姥が登場する昔話をいくつか紹介して終わりにしたいと思います。昔話には山姥は悪役として登場することもあれば助けてくれる役として登場することもあります。それぞれどんなお話なのか見ていきましょう。
三枚のお札
ある日、小僧が山中に入り込むと、恐ろしい山姥に出会いました。山姥の家に一晩泊まることになった小僧は、夜中に便所の神様の助けを借りて逃げ出します。逃げる途中、和尚様からもらったお札を後ろに投げると、それが山や川や火に変わり、山姥の追跡を妨げます。小僧は無事に寺に帰り着きますが、山姥は追跡中に命を落とすか、和尚様の知恵で退治されます。この山姥は非常に速い足を持ち、驚異的なスピードで追いかけてきます。これは、逃げる話の代表例です。そして、この山姥は子供を食べるという設定です。
食わず女房
ある男が「飯を食わない女房が欲しい」と願っていると、ある日、その願いが叶い、食べ物を必要としない女性が現れて妻になります。しかし、なぜか米がどんどん減っていくので、男が天井から様子を伺うと、妻は頭の口から握り飯を食べていました。男が別れを切り出すと、女房は男を桶に入れて山へ連れ去ろうとしますが、男は逃げ延びます。この話には、五月の節句の由来や「夜蜘蛛は親に似ても殺せ」ということわざの由来となる型があります。この山姥も大食漢であり、足が速いです。後者では、山姥の正体が蜘蛛であることが多いです。
馬方山姥
この話では、馬方が運ぶ魚を次々と奪う山姥が登場します。山姥は非常に大食漢で、また驚くほど速い足を持ちます。馬方が木の上に逃げ、池に映った自分を見た山姥が池に飛び込んで溺れることもありますが、多くの場合、馬方は山姥の家に逃げ込み、機転を利かせて山姥の餅や酒を飲み、最終的には山姥を退治します。山姥の正体が蜘蛛であることもあります。柳田国男の『山の人生』によると、足が速くて大食いという性質は、伝承上の山姥の特徴でもあります。
糠福米福
「米福粟福」とも呼ばれるこの話では、姉妹が栗拾いに出かけますが、姉の袋には穴が開いていて栗がたまりません。新しい袋をくれるのが亡くなった生母であったり、山姥であったりします。芝居見物の時に姉に美しい着物をくれるのもこの生母や山姥です。この山姥は主人公を助ける存在で、神のような役割を果たします。
姥皮
最初は「蛇婿」の話で、困っている父親を助けるために末娘が蛇の嫁になります。娘は巧みに蛇を退治して逃げ出しますが、彼女を匿ってくれるのが山姥です。実は、この山姥は父親が助けた蛙の化身で、娘に姥皮を与えます。娘は姥皮を着て火焚きばあさんとして雇われ、偶然にもその姿を見染めた長者の息子と結婚し、幸せに暮らします。
金太郎の母
山姥の伝承の中でも特に有名なのが、足柄山の金太郎の母親の話です。金太郎は坂田金時としても知られ、後に源頼光の四天王の一人となる伝説的な人物です。
『今昔物語集』によれば、976年に源頼光が上総国から京都に向かう途中、足柄山で赤い雲が立ち込める場所を見つけます。頼光は、その場所に人傑が隠れていると考え、渡辺綱を遣わしました。
その赤い雲が立ち込めていた場所には、老婆と20歳ほどの若者が茅屋に住んでいました。老婆は夢の中で赤い竜と通じ、その結果生まれた子供がこの公時であると説明しました。頼光はこの話を聞き、彼が並外れた存在であると感じ、彼に坂田金時という名を与え、家臣としたと言われています。
このように山姥は恐ろしい存在でありながら、人間に恩恵をもたらす二面性を持つ妖怪として、日本の各地で多様な伝承が語り継がれています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は山姥を見てきました。山姥の伝承は、日本各地でさまざまな形で語り継がれ、その恐怖と神秘性は今なお人々を魅了しています。恐ろしい鬼女としての一面と、母性的で恩恵をもたらす側面を併せ持つ山姥は、単なる妖怪にとどまらず、山岳信仰や古代の信仰と深く結びついた存在です。山姥の物語を通じて、人間の恐怖心や自然への畏敬の念、そして神聖なものへの信仰がどのように形作られてきたのかを感じることができます。
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